色々やってみる日記

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80年代〜90年代の少女漫画はなんであんなに骨太なんだろうね?【色褪せない名作:樹なつみ編】

9今週のお題 

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樹なつみ作品の好きなところ

ハードなオリジナル設定に、繊細な内面描写

樹なつみ先生は、『BANANA FISH』の吉田秋生先生や、『7SEEDS』の田村由美先生と同様にゴリッゴリに骨太な少女漫画描かれる方。設定のハードさ、死傷者の数、アクション量でも青年漫画にまったく引けを取らないんですが、そこに少女漫画のジャンルとしての正義である内面描写が織り込まれていて最&高としか言いようがない。

 

樹なつみ作品には神話のレファレンスが出てくることが多い。「わいらの常識が常識じゃない世界」を読めるのは漫画の大きな魅力だと思うんですが(BL小説の『FLESH AND BLOOD』で、水は腐るから、大航海時代の海賊は船上で水じゃなくてワインを飲んでいたーみたいな)樹さんの場合は、神話がインスピレーションの一つなのかもしれない。

 

神話の世界ではタブーでないからか、近親間での恋愛という描写が時折出てくるのも少女漫画って振れ幅すげぇ要素のひとつ。*1 インセストは現代社会ではユニバーサルなタブーなので、その欲望のせいで正常さを保てなくなる登場人物も出てきたりする。そういう葛藤を隠さずに全面に描くことで、読者までヒリッとするような遣る瀬なさが紙面から震えいきり立ってきます(かまいたち濱家風)。『ぼく地球』の年齢差といい『輝夜姫』の逆ハーレムといい、この時代の少女漫画はタブー感が少なかったのか、はたまた積極的にタブーもストーリーに活用していたのか・・・🤔

 

あと『BANANA FISH』や『パッションパレード』、成田美名子さんの『CIPHER』と読んで思うのはアメリカ社会への観察力がすげぇ。この世代の漫画家さんと同い年の我が母も、「奥様は魔女」なんかで見たアメリカンなライフスタイルは憧れだったって言うんですよ。ネット発達でボーダーレス化した今よりずーっと異文化への憧憬が強かったのかもしれない。異文化と社会を紙面で表現してやろうっていう研究心と気概もすごいです。調べ物は面倒くさくなかったのかしら(凡人)。

 

内面描写は抑えて、アクション重視のストーリーが読みたい方には『OZ』と『獣王星』がおすすめかな。

 

伏線の張り方がお見事!

樹なつみ先生の漫画には大きな伏線がひとつふたつ出て来ることが多い。伏線はストーリーの中盤から終盤にかけて回収されるんですが、仕掛け自体は物語の設定に基づいていて、どう考えてもストーリーを書き始める前のプロットで既に計画されたもののように思える。

 

芸術的な伏線は、今や読者をびっくりさせるための必需品になりつつあるけど、樹先生は伏線の張り方がとっても巧妙。名探偵コナンとかMENSA会員とかなら気づくかもしれませんが、私はいつも「先生が伏線回収に動き出しましたよー!」というでっかいヒント回まで気付かない。そして回収が始まると

 

ファファファファファーーーーーー!!!上手!伏線の張り方がおじょうず!なるほど、この設定はこの伏線を生かすためためだったのかーーーーー!!!ファッファー!

「いらすとや 機関車」の画像検索結果

 

というオタク蒸気機関車となって感動にお部屋をシュッシュッポッポするのであります。

 

 

 

わいの好きな樹なつみ作品ランキング

一位:『花咲ける青少年』全12巻 OR 文庫全6巻

【あらすじ】

世界トップレベルの事業家であるハリー・バーンズワースの一人娘、花鹿バーンズワースは、カリブ海の孤島ギヴォリで伸び伸びと育った。たまに島に遊びに来る華僑大財閥の幼馴染、立人(リーレン)と立人が連れてきたホワイトタイガーのムスターファと共に幸せな幼少期を送る。そんなある日、14歳になった花鹿に父ハリーが婿探しゲームを持ちかけて来た。「これからお前に見合う3人の男と出会う。その中からお前にふさわしい伴侶を選んでみなさい」。でもこの婿探しには、花鹿の出生にまつわるある秘密が隠されていて・・・?

 

 

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【感想】

適度な緊張感を持ち続けたまま、最終巻まで一気に読み進められる作品。今でも読み直すと次の巻、次の巻と手が止まらない。ラギネイ王国の陰謀に巻き込まれたり、それぞれの立場に課せられた責任と制約があったりと、骨太さと少女漫画らしい内面描写がすごいバランスで両立している。このために婿探しというテーマだったの??と思うと、作者すごいとしか言葉が出ない。花鹿、立人、そして3人の伴侶候補、全員のキャラクターが素晴らしい。特にマハティ/ルマティのラギネイ王子たち。まっすぐで素直な性格なのに、人の何倍も強い責任感と業を背負っていて、愛しいやら哀しいやら。魅力的なキャラクターってこうやって作るのか、と勉強になる。個人的には『OZ』や『獣王星』ほどは人が死なないところも好き。

 

1990年代に連載されていたということで「古臭いんじゃないか」と思う若人たちがいらっしゃるかもしれませんが、驚くほど古臭くないです。むしろフレッシュ。本当に、色褪せない漫画です。

 

同率一位:『デーモン聖典(サクリード)』全11巻 OR 文庫全6巻

【あらすじ】

世界中で多発し始めた逆行症候群という「年齢が若返って消滅してしまう」奇病にかかった小井草りな。りなの双子の妹であるもなは、二人の保護者で製薬会社に務める忍の協力の元、りなの若返りを食い止める方法を探している。ある日、りなともなの前に美しいユニコーンのミカが現れる。幼い頃ミカと過ごした記憶を思い出したもなとりなは、ミカから「逆行症候群は異世界から地球にやってきた霊的存在(デーモン)と接触した人間に起こること」そして「デーモンを従わせることができる鎖と呼ばれる人間が存在すること」を知らされる。デーモンたちは、唯一無二の運命で繋がれた特別な鎖を探すために、人間界に現れていたのだった。

 

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【感想】

『デーモン聖典』は初めて読んだときに「完璧な漫画」と思った。和牛の漫才みたいな感じ。全てが完璧すぎて、マイナス評価をつける隙が一切存在しない感じ。設定が多少破綻していてもいい、荒削りでいいから「面白いものが読みたい!」というのとは違うかもしれない。創作料理屋というよりは計算されたフレンチや和食みたいな感じ。個人的には樹なつみ作品、ここに極まれりと思ったシリーズである。あまり話すとネタバレになるが、ここだけのはなし、デーモン聖典を読んで発車されたオタク蒸気機関車はかなりシュッシュッポッポだった歴代No.1の蒸気機関車が走りました。『花咲ける〜』のときの絵柄と比べると、だいぶ現在の樹さんの作画です。ここに挙げた3作品のなかでは一番少女漫画っぽいかもしれん。

 

三位:『八雲立つ』全19巻 OR 文庫全10巻

【あらすじ】

普通の大学生である七地健生は、先輩の手伝いで訪れた出雲地方で、シャーマンとして神事を行う高校生の布椎闇己(ふづちくらき)と出会う。シャーマンとして類稀なる能力を誇る闇己だったが、彼は同時に負のエネルギーと共鳴し、闇に取り込まれる可能性を自覚する危うい少年でもあった。負の影を感じながらも正のシャーマンとして生きようとする闇己は、刀鍛冶師の血統を受け継ぐ七地とともに、出雲に集まった怨念を浄化するべく盗まれた6本の神剣を集め始めるのだった。

 

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【感想】

一番最初に手に取った樹なつみ作品。『花咲ける〜』と『デーモン聖典』に比べるとストーリー全体を通した起承転結の起伏はなだらかかもしれない。ひとつの大きな謎を追っていくというよりは、毎回事件が発生し、それを闇己くんと七地が解決していくオムニバス形式な感じ。闇己の周りには闇落ちしてしまった人たちがいて、闇落ち組の対として七地、妹の夕香、闇己のいとこの蒿くんが陽のキャラクターを担っている。そのどちらにも属せないという図式に、闇己くんの不安定さと、それでも正の仲間と共に行こうという意思が表現されているように思う。インセストタブーや男女関係のどろどろした部分が描かれ(『OZ』や『獣王星』のような生死に関わるヒリヒリ感とはまた違う)ゾクッと感を味わわせてくれる。七地が闇己の「刀の鞘」になっている関係性は、BANANA FISHのアッシュと英二の関係性を彷彿とさせる。読み方によってはニアBLと受け取る人もいると思う。現代劇だし七地が普通の子だからとっつきやすい作品。

 

おしまい

というわけで、樹なつみ漫画を一部ご紹介してみた、でした!

 

ちなみに同年代の少女漫画はこちらのebookjapanの特集で一挙紹介されていました。私は3/4くらいが履修済みだったかな。写真は一世を風靡した「ぼくたま」こと『ぼくの地球を守って』ですね〜。ぼくたまも大好き〜。

 

80年代〜90年代の名作少女漫画を一気紹介! 80年代〜90年代の名作少女漫画を一気紹介!

 

少し前から『八雲立つ』の続編になる『八雲立つ 灼』の連載が始まったこともあり、わいは2020年も樹なつみ先生の漫画に楽しませてもらえるのです。40年も読者を楽しませてくれる樹先生、尊いね。

 

んじゃまた!

 

 

 

*1:『朱鷺色三角/パッションパレード』『八雲立つ』