色々やってみる日記

粘土フィギュアの製作ログ、うつや不安症の話、論文執筆やResearch Studentのあれこれについて。

人気海外YoutuberのSimply Nailogicalが公務員を辞めない理由がイイヨネ。

 

カナダ人の有名YoutuberでSimply Nailogical(シンプリーネイロジカル)という人がいる。チャンネルの主はクリスティーンというエキセントリックな女性で、最初は彼女が趣味のネイルアートを投稿していたチャンネルだったのが、途中で「いや本人が面白すぎるわ」とクリスティーンメインに移行していった感じ。

 

クリスティーンは長年付き合っている彼氏のベンさんと同棲していて、ザイラーとメンチーという二匹の猫を飼っている。クリスティーンさんはネイルアートと並んで紅茶が好きで、ベンのことを「Drink Slave」と呼び、いつも紅茶を買ってこいと呼びつけている。下の動画では「最近ベンが紅茶を持ってこないから、Tinderで新しいdrink slaveを見つける!」という企画をやっていた(ちなみに全然エロくないのでご安心)。

 

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Simply Nailogicalは本当に面白くて大好きなんだけど、クリスティーンが良いなと思う理由がもう1つある。それは彼女が750万人近くの登録者数を持っているにも関わらず(ヒカキンが780万人)、フルタイムで職場勤めをしている兼業Youtuberだというところだ。動画投稿は主に週末に1回のみ。

 

 

 

クリスティーンは週に5日、カナダ政府で犯罪統計アナリストとして働いている公務員である。ちなみに彼氏のベンもカナダ政府の同じビルの同じフロアで税関係の仕事をしている公務員。

 

チャンネル自体はネイルアートとクリスティーンの面白パーソナリティがメインなので、フルタイムの仕事の話はほとんどしない。でも時折、視聴者さんからの「なんでそんなにYoutubeで成功しているのに、フルタイムの仕事を辞めないの?」という質問に答えたりしてる。

 

クリスティーンの回答は「私はデイジョブ(本業)に就くために苦労して大学院に行って、200何ページの修士論文も書いて、自分に時間や労力を投資してきた。そのおかげで得られたキャリアを大事に思っているし、何より私のデイジョブは社会に必要な仕事だと思っているから」って感じだった。

 

クリスティーンの言うところの「社会に必要な仕事」って、人類学者のディビッド・グレーバーが2018年発行の『bullshit jobs』で語った内容に似ているんだと思う。本の中でグレーバーは下のようなことを主張している。

 

私たちの社会には「他人にとって必要な仕事をしてくれている人に限って給料が少ない」という一般化されたルールが存在する。「どういう仕事が他の人にとって必要な仕事か」を測る客観的な指標を作り上げるのは難しいが、こんな風に想像することはできるだろう。もし、そういう仕事についている階級の人たちが一夜にして消えてしまったら?例えば看護師、ゴミ清掃員、メカニックが一瞬のうちに社会から消えてしまったら。すぐに大惨事が起こることは想像に難しくないはずだ。世界から教師や湾港労働者が消えてしまったら、世界はすぐにトラブルに陥る。SF小説家やスカ・バンドがいなくなってしまっても、世界が今よりつまらない場所になることは明白だ。一方で、世の中からプライベート・エクイティ・ファンドのCEOやロビースト、PRリサーチャー、保険計理人、電話勧誘販売員、執行官、法律コンサルタントが消えるとどうだろう。少数のちゃんとした仕事を除いて(例えば医者とか)、ほとんどの社会はそれほど混沌に陥らないだろう(P.9)

   

クリスティーンは動画作りを楽しんでいるけど、「自分のデイジョブの給料と比べて、Youtubeでの収入は必要以上に多く稼げている」としばしば口にする。

 

 

 

「動画投稿が大好きでクリエイターになりたいならYoutuberを目指すのも良いね。でもお金が稼げるからという理由で、世の中の人間が全員Youtuberを目指す社会は(全員が成功できるわけじゃないからそもそも成立しないとはいえ)破綻しているでしょ?」と。確かに、Youtuberが100人消えるのと看護師、介護士、保育士が100人消えるのでは、どっちが社会に影響が大きいかは明らかと思う。

 

彼女くらい人気があれば、専業Youtuberになれば莫大な金額を稼げるわけで。現実にあれだけ人気があって鼻先に人参がぷらぷらしている状態で、ブレることなくデイジョブを続けているっていうのは、めちゃ芯が通ってるなと思う。

 

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わいも、ブログで小遣いが稼げたら現実に嬉しいし、生活の助けになるだろうなぁと思う(し、実際広告も貼っているし、わいのデイジョブはわいに1円も払ってくれない)。一方で、「会社員をするよりお金が稼げるから」という理由で全員がブロガーやYoutuberを目指す社会はふつーに考えて破綻しているとも思う。

 

ブロガーやYoutuberという職業がいけないというわけじゃない。むしろYoutubeやブログというお金の稼ぎ方のオプションがあるのは「色んな人に参入のチャンスがあって、色んな人が生きていける世界」に貢献している側面があると思う。言いたいのは、他の仕事じゃ生活できないからという理由でみんなが離職してyoutuberや株トレーダーを目指し始めるとき、そんな風に思わせる・そんな風になっている社会の仕組みは歪んでいるということの方。

 

社会のシステムは、それがどんなに自明に見えるものでも、不変ではないし、必然でもない。歴史学や社会学の重要な役割は、わいらに「今の世の中の仕組みは不変でも、最善でもない」と教えてくれることだ。現代を生きる人間にとって国民国家ってこの世で一番動かない現実のようだけど、主権国家体制の始まりと言われるウェストファリア条約は1648年だし、第二次世界大戦が終わるまでは帝国と植民地主義という仕組みが当然のように存在していた。例えば科学も「人類史上初めて文化的差異を超えて全世界に当てはまったユニバーサルな真実」という認識が一般的かもしれないけど、科学よりも圧倒的に歴史が長く、そういう意味で人類史にとって不変に近いのは信仰・宗教・儀礼の方だ(漫画『とりかえ・ばや』でも平安時代の貴族が天災対策として、政策として、「神に祈祷する」シーンがあった)。

 

そういう反-自明の認識を資本主義に対しても持っていて、シロクマさんのアタマが良くてマーケットがわかる人しか稼げない社会は「要らない」。 - シロクマの屑籠とか、漫画『マギ』でシンドバッドが作ろうとした社会に対するアリババのアンチテーゼに賛同している。

 

私は理想主義者だし、pettyだがアクティビストでもある。世の中は放っておいても最善の方向に進むと思っていないから、何かが看過しがたいほど嫌なら、それは声をあげていくしかないと思っている(今の日米FTAとか)。

 

「日本の会社はオワコンで、ブログやYoutubeの方が現実に稼げるんだから、早く社会なんて泥舟捨ててしまおう(i.e.,資本主義は不変の仕組みで変えられない)」という方向性よりは圧倒的に、もっと「介護士や保育士を筆頭に、社会に必要な職業に適切な給与が払われる方」を目標にして、わずかながらの社会への関与をしていきたいなとは常に思っている*1。そしたらみんながみんなYoutuberを目指さなくも良くなるわけだし。

  

 

  

*1:福祉セクターが利益、成長、効率を第一主義にしたら現場は破綻するし、結果として人命、福祉、公共性に深刻な差し障りが生じる。現に大学は資本主義化によって教育という最も尊重されるべき存在意義が副次的になっている。