色々やってみる日記

粘土フィギュアの製作ログ、うつや不安症の話、論文執筆やResearch Studentのあれこれについて。

夢を追うマンガ (文化系) をたくさん読んだのでレビューする【前編:ましろのおと、3月のライオン、この音とまれ!】

 

津軽三味線マンガの『ましろのおと』(1)〜(23)

あらすじ

主人公の澤村雪(せつ、高校生)は、津軽三味線の名人を祖父に持ち、幼い頃から兄(若菜ちゃん、老け顔の19歳)と三味線を習ってきた。師である祖父の逝去をきっかけに、これからどうやって自分の音と向き合っていけばいいのか悩んだ末、雪は、半ば衝動的に東京に飛び出す。

 

 

物語の構造、主軸、展開

『ましろのおと』は構造的には『ヒカルの碁』によく似ていると思った。共通点は、(1)ヒカルも雪も定住地を持たないところ、(2)目的が自己探求にあるところ。仲間やライバルが必須の部活マンガとは対極にあるような、自己本位に高みを目指すマンガ。

 

『ヒカルの碁』の進藤ヒカルは、弱小囲碁部からスタートし、より高いレベルの棋院へ、そしてプロへ、と定住することなく環境を変えていく。『ましろのおと』の雪も、高校の津軽三味線部、民謡居酒屋、三味線グループを結成して音楽活動、という風にどんどん居場所を変えていく。理由は物語の主軸が雪の自分の音探しだから。もちろん、ましろのおとにもライバルは複数人いて、仲間や教えてくれる先輩も出てくるが、サブキャラの役目はあくまで雪の音楽に影響を与えたり、進化を見守ること。仲間と全国大会を目指したり、おなじみのライバルとバチバチやりあうマンガとは根本的に違う。勝敗がある競技ではたとえ個人戦でもライバルの存在は強く意識してたりするが (『ちはやふる』なんかがそう)、『ましろ』において仲間やライバルは不可欠とまでは言えない。しいて不可欠な他者は、雪にとって超えられない目標であり続ける祖父の音のみ。『ヒカ碁』のヒカルと同じく、雪も孤独というよりは貪欲な主人公だと思った。

 

こんな人にオススメ!才能がある主人公の無双が読みたい人

雪は『3月のライオン』の桐山零と同じく、すでにハイスペックな主人公。幼い頃から環境に恵まれ、練習を積み重ね、才能を開花させたいわゆる無双主人公(ブルーピリオド、アクタージュ、ランウェイの主人公は、才能はあるけど経験値は極めて低い、いわゆる初心者駆け上がり系)。 みなさんは無双主人公が好き?わいは大好物!自分には備わっていない無双を持った主人公が、その上で高みを目指していくストーリーには安心感とスカッと感が共存している。夢追い人につきものの不安定や挫折を、「雪なら絶対なんとかなる!」という希望で中和してくれる。『ましろのおと』はそのバランスがとても良いなと思った。ハラハラするけど、最終的に安心して読める。演奏シーンでの観客ブワァぁぁはお決まり中のお決まりだが、作画と演出の力量によって、わいは毎回飽きずにブワァぁぁとなってしまうのだ。

 

 

※講談社のyoutubeでコミックス付属のCDの試し聞きができる。5巻、8巻、15巻、21巻の特装版がCD付きだそう。とても素敵。梅子唄うめぇ。

www.youtube.com

 

備考
  • 羅川節が効いていて、懐かしいやら嬉しいやら (『赤ちゃんと僕』以来のファンです///)。個人的には兄の若菜ちゃんがとてもかっこよくて、結婚してほしい///。だいたい兄をちゃん付けで呼ぶなよ、おばちゃん萌えちゃうだろう。
  • 銀の匙』の荒川先生と同じく(北海道の出身で家業が農業)羅川先生は青森県出身。雪をはじめとした登場人物の多くが青森弁を話す。
  • マンガは変わるが、小説家の木原音瀬さん原作、羅川先生が作画の「吸血鬼と愉快な仲間たち」(非BL) もめちゃくちゃ良いので読んで欲しい。小説全巻持ってます。読むたびに自然と泣いちゃう。

 

 

 

  

将棋マンガの『3月のライオン』(1)〜(14)

あらすじ

子供の頃から友達ができない主人公の桐山零は、突然の事故で両親と妹を失う。内弟子という形で引き取られたプロ棋士の家庭で、将棋に真剣な零に義父の期待が移ったことで、2人の実子をはじめとした家族はいびつに歪み始める。史上5人目の中学生プロになった零は、居場所のない家を出て、新しい場所(三月町)で一人暮らしを始めるのだった。

 

 

物語の構造、主軸、展開

非定住型の『ましろのおと』とは異なり、『3月のライオン』は完全に定住型三月町という架空の下町(東京都中央区佃がモデル)を舞台に、どんどん零の周りに優しい交流が増えていく。内向的な零の生活は三月町で出会ったおせっかいな三姉妹によって一変し、彼女たちの影響で、零は勇気をだして外の人間と交流を持てるようになる (その意味で『銀の匙』と類似)。『3月』では、零の目線を追って (1)プロ棋士としての生活 と (2)三姉妹と過ごす普通の高校生としての生活、という2つの世界を体験することができる。ふたつが順繰りになって比較的パッパと季節が巡っていく(数時間の勝負の心象風景に5冊かけるタイプのマンガではない)。『ちはやふる』とか『ヒカルの碁』に比べて、将棋のシーンはライトかつコミカル。プロ棋士としての生活の方でも、主軸なのはそれぞれの棋士の性格だったりバックボーンの方であって勝負内容ではない。ふたつの世界に共通して作者が描こうとしているのは人間ドラマだと思う。周囲が主人公の目的のために存在する『ましろ』とは対照的に、『3月』ではありとあらゆるサブキャラクターに独立した人生があることが強調される。自立した主人公が、気付けば他人が織り成すネットワークの一部になっていることにこそ意味がある。

   

こんな人にオススメ!前向きに生きる意志が読みたい人

不慮のできごとを人生から排除することはできないが、現実に向き合う勇気が持てれば、助けてくれる人は大勢いる、世界には優しさもちゃんと存在するよ、という社会不安障害へのリハビリのようなメッセージを感じる作品。三姉妹には親がなく (母は他界しており父は筋金入りのダメ男) 生活にまったく不安がないというわけではないが、零を変えるほどのすごい資質 ー 優しさ、強さ、前向きに生きる意志を持っていた。棋士達もそれぞれ「絶対に勝ちたい」という不安を抱きながら、それでも敗けることもあるし、たとえ挫折しても完全に歩みを止める人はいない。頑張って生きる人たちの漫画だから、「自分も頑張ろうかな」や「自分も外出てみようかな」っていうほんのりした意欲が湧いてくる。諸行無常というリアリティに則って、降って湧いた不幸もぽこぽこ起きるけど、ほとんどの登場人物がちゃんと向き合って乗り越えるから最終的にはすべてが優しい空気に包まれている。零は無双度高めなんだけど、それは本筋じゃないので主人公無双漫画を求めている人には違うかもしれない。

 

備考
  • 零をライバル視している二海堂晴信、先輩棋士の島田さん、高校の先生等、味のあるキャラクターがいっぱい出てくる。学校、将棋会館、三姉妹、ありとあらゆるサブキャラクターに独立した人生がある。  
  • おじさんが好きな人にはとても勧められる。おじさん登場率高し。

 

 

 

箏曲マンガの『この音とまれ!』(1)〜(20) 

あらすじ

先輩達が卒業し、2年生部長の倉田しか部員がいない時瀬高校の箏曲部。そこに、中学時代警察沙汰を起こしたこともあるヤンキーの久遠愛(ちか)が入部してくる。実は箏曲部を創設したのは琴職人だった久遠の祖父で、愛は心労をかけた末に他界した祖父の愛した楽器を理解したかったのだ。破門されたエリート箏曲家である鳳月さとわ、愛の3人のツレも入部し、新生箏曲部として全国優勝を目指す。

 

  

物語の構造、主軸、展開

これは少女漫画の部活もの。ジャンプSQ連載だけど、エッセンスは絶対に少女漫画。花とゆめの『なまいきざかり』とか『ラストゲーム』をなんとなく彷彿とした。男女の主人公ふたり (愛とさとわ) に圧倒的なスポットライトが当たっている。あと部活のメンバーが(部長とのちに加入した 2年生女子を覗いて)全員愛のツレっていうのが珍しい。部活漫画って、決まった人数の枠にどんだけ魅力的なキャラクターをつっこむかに注力するものと思ってたけど、『この音』はその点においてはヤンキー更生漫画っぽい印象。『ルーキーズ』とか『ごくせん』系の、すでに仲間の状態から何かを目指していく形式。16巻で進級して、タイプの違う新入生が入ってから、関係が複雑になってて良い。

練習➡︎大会➡︎練習➡︎のサイクルのなかで登場人物の成長を見せるところは、部活マンガの定石通り。でもインターハイが終わったらまたすぐにインターハイ始まった『弱虫ペダル』の主軸が競技の勝敗なのに対して、『この音とまれ!』は青春と成長過程を見せることが主軸。だから練習シーンが端折ることなく描かれる。登場人物の成長スピードは早くて、その理由がめちゃくちゃ努力したから、というのにおばちゃんはリアリティは感じないが、それは欠点というより読者層の違いなんだと思う。おばちゃんは週7で朝4:00から始まる部活ブラックって思うけど、それを「できるよ!わかる!」って思えるのが、若さというエネルギーなのかも。リアリティ重視じゃなくて青春重視。その意味で完璧に目的を果たしているマンガ。 

 

こんな人にオススメ!心の綺麗なヤンキーに浄化されたい人+キラキラ青春の汗を浴びたい人

『この音とまれ』は主人公の愛が持ち前の優しさ、まっすぐさで全キャラクターの憑き物を落としていく霊媒漫画(読んだ人はわかると思うけど、これ嘘だけど嘘じゃない)。『ブルーピリオド』にも思ったけど、主人公の魅力で殴ってくるタイプの漫画、と『バクマン』の高木なら言うかも (高木に責任をなすりつけるな)。『ブルーピリオド』の八虎の魅力は「努力家1:スポンジのような吸収力1:性格の良さ1」って感じだけど、愛の魅力は99%が生まれ持った人間性愛がいたら、この漫画には悪も混沌も貧困も訪れないんだろうなと思わせてくれる、生きる浄化水晶。これはとにかく青春マンガ。キラキラした若者の汗と涙と友情で喝を入れられたい、横っ面をひっぱたかれたい人にはとてもオススメ。私も「へっ、ベタだぜ……」って言いつつしっかり何回か泣いた。鳳月さとわは無双なんだけど、現状あくまでチームプレーに徹しているので、無双でスカッとするような見せ場はあまりない。

 

※ジャンプSQの公式youtubeで作中オリジナル曲が聞ける。演奏が素敵だし、コメント欄に現役学生が多くてフレッシュ。リアリティに欠けると評したけど、不良少年がチームでこんなふうにお琴を演奏できるようになったら感動していっぱい練習できちゃうのかもな!

www.youtube.com

  

備考
  • お琴の表現方法が良い。愛と倉田部長の音が初めてきれいに一致したシーンの表現がすごく好きだった。
  • あっちこっちで恋愛フラグが立つので、恋愛漫画好きにも勧められる。
  • 登場人物のトラウマを描くために身内を殺すのはちょっとなぁ。。。(*´・ω・)σ 特に二人目、ほんとうにその設定が必要なのか、必然性を感じられなかった。

 以上!どれも面白かった。